有地さん、本の新たな魅力とはどのようなものですか?

ハタラキカタログ
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有地 和毅

  • 日本出版販売株式会社
    営業本部 リノベーション推進部 YOURS BOOK STORE事業課
    ブックディレクター
子どものころから本好きだったという有地和毅さん。現在はブックディレクターとして、書店のリノベーションや、書店以外のさまざまな場所で本のタッチポイントを増やす仕事をされています。本を取り巻くビジネスの現状について、そして本がもつ可能性について話を伺いました。
  • 取材・文 駒井允佐人
  • 写真 慎 芝賢
  • ※掲載されている情報は取材当時のものです

本は何にでも接続できる

これまでのお仕事と現在の活動について教えてください。

いわゆる書店員が始まりです。本を並べたり、フェアを考えたり。次第に店頭だけでなくオンラインでの広がりを求めて、ツイッター連動企画をいろいろ考えました。その一つが芥川賞作家・絲山秋子さんとの「#公開書簡フェア」です。全国の10人の書店員が、それぞれ思い思いのテーマで絲山さんと手紙のやり取りをし、それを店頭で公開するもので、普段のお客さんだけでなく、ツイッターを見て来られた人も数多くいらっしゃって、とても盛り上がりましたね。また、音に関する本をハッシュタグをつけて投稿してもらい、その本を棚に並べていく「#音の本を読もう」という企画も手がけました。書店を、お客さんが本を紹介し合う場として機能させようという発想から始めたもので、音の専門家や研究者も投稿してくれたりして、これもすごく反響がありました。

出版社の人と書店向けの販売企画を考える部署に異動した後は、企業が書店をメディアとして活用し、メッセージを伝えようという企画が生まれました。食べ物でも、ファッションでも、本は何にでも接続できます。本を介在させることで、単なるプロモーションではなく価値観の共有につながるというメリットもある。こうしてだんだんと企業ブランディング企画を手がけるようになりました。

いま所属しているYOURS BOOK STOREではどんなお仕事をされているんですか?

本のタッチポイントを増やす、ということを「YOURS BOOK STORE」全体のミッションとしています。たとえば本と暮らすように滞在できるブックホテル「箱根本箱」や、緑豊かなキャンプ場で本を楽しむ「森の生活」、多数のアパレルブランドを全国展開するパルグループの原宿の旗艦店に漫画ショップを併設した「baseyard tokyo」などですね。アパレルは、スタッフがインフルエンサー的な存在になりやすい業種で、お客さんとしては「信頼できるスタッフに薦められた服なら安心」という思いがある。聞いてみると、スタッフはみんな漫画好きということがわかったので、それでスタッフとお客さんを漫画という共通言語で結びつけたわけです。ここでは漫画家や漫画の研究者を呼んだり、DJとグラフィティライターを招いてライブペイントを行ったりして、ファッションと漫画のカルチャーを発信するイベントを数多く行っています。

「入場料のある本屋」の発想とは

「文喫」はどのような経緯で生まれたのでしょうか。

本屋さんのない自治体が増えてきたりして、本屋さんに行くことが当たり前ではなくなってきた、ということが背景にありました。どうすれば本との出会いの場を維持していけるのだろう、ということを考えていたとき、青山ブックセンター六本木店が閉店するというニュースが飛び込んできた。多くの人に愛される本屋さんでも閉店せざるを得ない時代なのだという驚きとともに、その跡地で営業できないかということになり、そこからは一気に企画が進みました。

入場料を設定されていますが、その理由は?

書店を街なかに維持していくために、事業構造、収益構造を変えていく必要があると考えたからです。書店員がつくる棚はそれ自体に価値があるということで、有料書店という考え方は昔からあったんです。しかし本屋はもともと “無料”が当たり前ですから、どんな付加価値を付けても“高く”見えてしまう。一方で本を読めるカフェも出てきました。入場料を払えば、滞在時間は無制限。店内には喫茶室もありますが、閲覧室や研究室で飲む珈琲、煎茶のサービスは無料にしました。また平日に何度でも入場できる定額制の「文喫定期券」もあります。こうして、長時間の滞在でじっくりと本と向き合い、吟味し、購入していただこうというのが、この店の特徴になります。

でも、時間無制限で本を読めるのなら、読み終わってしまって購入につながらないのでは?

文喫では人1席を必ず確保出来るようにしていて、平均滞在時間が4~5時間というところです。読み終わるくらい好きになった本って、みなさん買っていかれるんですよね。通常の書店は新刊などを大量に仕入れて、効率よく売ることを考えます。でも、ここは常時約3万冊を置いていますが、すべてが一点ものです。それは、いろいろな人に自分に合う本と出会っていただきたい、というコンセプトがあるからです。手に取って購入しなかった本は、返本台に戻してもらうのですが、この本の並び方を見るだけでも、人がどんな本を気にかけているのかわかって興味深いですよ。

本を新たに社会実装する

本を介して、いろんな人がいろんな使い方をされているんですね。

電源もWi-Fi環境も整っているので、PCを持ち込んで仕事をする人、勉強のために利用する学生、研究室で読書会をするグループもいます。人を介して本と出会うイベントも定期的に行っています。たとえば、一つのテーマを決めてそのキーワードを八つ挙げてもらい、それをもとに棚から本を選んできて、対話していきます。このワークショップで選んだ本を展示コーナーに並べると、自分たちが選んだ本ということで、参加者が運営側に近い立場になって情報を発信、拡散してくれるんですね。以前実施したツイッター連動企画と近いのかなと思います。

最近、企業のロビーや研究所、工場などにライブラリーを設けるところが増えてきましたが、「文喫」でも今年から「ライブラリー共創サービス」という法人向けのサービスを始めたそうですね。

はい。従来の企業ライブラリーは、本を置いてあっても手に取る人がいないということがあったと思います。なので、このライブラリーがもっと生かされるように、コンセプトデザインから選書、企画展示、ワークショップ、コミュニティの形成などのやり方を、企業の人と一緒に練り上げていきます。たとえば「ドラえもん」を漫画のコーナーに置くか、ビジネスのコーナーに置くかで、その企業の考え方が見えてきますすよね。つまり企業ライブラリーは企業の顔であり、企業のカルチャーを示すものという考え方で本棚をつくっていくわけです。僕は「本を新たに社会実装する」という言い方をしているんですが、こんなふうにいろいろな場所に本を置いて、本を「読む」ものから「使う」ものに、どんどん拡張できたらいいなと思っています。

有地さんにとって「働く」とは?

私自身、会社の定まった場所で仕事をするという状況はどんどん減ってきています。「文喫 六本木」をはじめ、街のいろんな場所で仕事をすることが多くなりました。仕事をする場が多様になったように、変化する個人をベースにした働き方を考えてもいいと思います。人は自分を固定して、自分の役割はこうだと考えがちですが、実際には仕事を通じていろんなことを学び、どんどん変化していくものです。自分を変化するものと定義して業務のプロセスを考え直してみてもいいかもしれませんね。